なぜ、あなたのミニ財布は使いにくいのか
- 7月23日
- 読了時間: 8分
こんにちは。
Dim.開発室がお送りする、"Dim. Journal"です。
ここでは、革や革製品、ファッション、日々の持ちものに関する話を、少しずつ書いていこうと思います。作り手として考えたり悩んだりした中で出てきた感覚を大切にして、革製品を作る中で考えたこと、革製品を使ってみて気になったこと、素材や構造について調べたことや革製品の内側にある考え方や手触りのようなものまで残していく場所にできればと考えています。
ゆっくり、でも(更新が)止まらないよう精進しますので、お付き合いいただけますと嬉しいです。
ミニ財布は、もう特別なものではなくなった
さて、記念すべき第1回目は、ミニ財布についてです。
キャッシュレス化が日本でも進み、現金をたくさん持ち歩く機会は以前より少なくなりました。スマートフォンやカードで支払いを済ませることが増えたことで、財布も大きなものから小さなものへ移行してきたように感じます。
少し前までは、ミニ財布には流行のような印象もありました。
けれど今では、もはや定番の一つに近い存在になってきたのではないでしょうか。ポケットに入れやすく、小さなバッグにも収まりやすい。
しかし、ミニ財布に変えてみると「小さいのは確かに良いけれど、思ったより使いにくい」と感じることがあります。そう感じるとしたら、数値で測れないものを見逃しているのかもしれません。
ミニ財布は見せ方が強いジャンルです。薄い、小さい、軽い。カードや紙幣、硬貨がどれだけ入るか。こうした数値や機能は比較しやすく、作る側から見ても伝えやすい要素です。
我々Dim.も、製品に興味を持ってもらう入口として、薄さや軽さ、収納量を伝えることがあります。ただ、作り手として本当に時間をかけているのは、数字では見えにくい使い勝手の部分です。
外寸が小さいこと、カードが何枚入ること、重さが何グラムであること。もちろんそれらは大切です。しかし、実際に財布を使うときには、開いて、中身を出して、受け取ったものをしまい、また閉じるという動きがあります。
財布は、数字で競うデータファイルではなく、手に取って使うツールです。

小さい財布は、何を犠牲にしているのか
ミニ財布が小さいぶん、収納量が限られるのはある程度仕方のないことです。
カードを多く持ち歩きたい人、紙幣を折らずに入れたい人、領収書やレシートを一時的に多く入れる人にとって、ミニ財布では少し窮屈に感じる場面もあると思います。
ただ、ミニ財布の使いにくさは、単純に「たくさん入らない」ことではありません。むしろ問題になりやすいのは、開閉する動きや、カード・紙幣・硬貨を出し入れするといった“動き”です。
財布を小さくするほど、内部の構造も小さくなります。指を入れる場所や、貨幣が動く場所も限られていきます。その結果、カードは入るけれど少し出しにくい。紙幣は入るけれど戻すときに少し気を使う。硬貨入れはあるけれど、会計時に中を確認しにくい、または取り出しにくい。そういうことが起きます。
収納量が落ちること自体はわかりやすいトレードオフです。
けれど実際には、容量よりも、使うときの動きの煩わしさのほうが先に気になることがあります。
つまり、容量不足というより、動作の流れがどこかで引っかかっている場合が多いのではないかと思います。
作り手から見たミニ財布
作る側から見ると、ミニ財布はかなり難しい製品です。
財布を小さくするには、どこかを削る必要があります。革を一枚省く。パーツを小さくする。仕切りを減らす。留め具を変える。重なり方を変える。そうした一つ一つの選択が、収納力、使い勝手、耐久性、外観の印象にそのまま影響します。
しかも、革はかなり融通が利かない素材です。例えば紙であれば折り目をつけると、その形をある程度保ってくれます。けれど革には厚みがあり、弾力があり、折っても元に戻ろうとします。曲げた部分には負荷がかかり、重ねればそのぶん厚みが出ます。薄く漉けば扱いやすくなる一方で、強度や張り、手触りは変わります。
(折り紙のように革製品が作れたらどんなに楽で自由なんだろうか!)
さらに、同じ種類、同じ仕上げの革でも、厚みや硬さには個体差があります。同じ一枚の革の中でも、場所によって繊維の締まり方や硬さが違います。均一な工業材料のように、毎回まったく同じ条件で扱えるわけではありません。革は、人間のために均質につくられた工業材料ではなく、一枚ごとに異なる表情を持つ素材だからです。
そのような素材で、収納力、使い勝手、耐久性、外観の良さを同時に成立させ、その上で同じものを再現性を高く保って作り続けられるように設計する。
これは、想像する以上に複雑で難易度が高いことです。
収納力を上げれば厚みが出る。薄くすれば耐久性や扱いやすさに影響する。見た目をすっきりさせれば、内部の動きにしわ寄せが出ることもある。
だからミニ財布では、単に小さくすることよりも、どこを小さくし、どこを残すかが重要になります。そしてその判断は、完成した財布のサイズだけではなく、使うときの動きに表れます。

あなたのミニ財布は何が削られている?
ミニ財布は、小ささと引き換えに何かを削って作られています。ただし、削ったものがそのまま不便になるとは限りません。
大事なのは、削った分をどこで受け止めているかです。
たとえば、パーツを一つ減らせば厚みは抑えられます。
その一方で、そのパーツが担っていた仕切りや保持の役割は別の構造で受ける必要があります。
留め具を減らせば開閉は軽くなりますが、中身の収まり方や、閉じたときの安定感を別の方法で考えなければなりません。革を薄くすれば全体は軽くなりますが、張りや耐久性は変わります。
こうした選択は、単純な良し悪しではありません。
小さい財布を作る以上、何かを削ること自体は避けられない。問題は、削ったことで生まれた負担が、構造の中で処理されているのか、それとも使う人の動きに回っているのかです。
作り手側でうまく受け止められていれば、財布は小さくても自然に使えます。
反対に処理しきれていない部分は、カードを出す前にホルダーを操作する、紙幣をしまうときに向きを整える、閉じる前に膨らみを押さえる、といったユーザーの小さな動きとして表れます。
財布そのものは小さくなって利便性の一つの要素は高まっているけれど、使う人の動きや気にしないといけない点が少し増えている。ミニ財布の使いにくさは、そういうところに出るのではないでしょうか。
だから、ミニ財布を見るときは、数字でわかるスペックだけでなく、使い心地も見ておきたい。
革に手で触れたときの感じ、開いたときの見え方、カードや紙幣を出し入れする動き。中身を入れた時の厚み。
その選択が使い心地にどう表れているかが見えてくると、ブランドやメーカーが何を大事にしているのかまで少し見えてきます。

手に取るとわかること
ミニ財布を選ぶとき、サイズや収納量を見るのは自然だし、そこは入口として大切。
それだけで決める前に、少しだけ使う場面を想像してみましょう。
その財布を、あなたがどう扱えるか。よく使うカードにすぐ触れられそうか。紙幣や硬貨を出し入れするときに余計な動きが増えなさそうか。留め具やフラップの開閉は、自分の使い方に合いそうか。中身を入れた状態でも、形や厚みの出方に無理がなさそうか。
ミニ財布は、どれも何かを選び、何かを削って作られています。
小さい財布はその選択がはっきり出るから面白い。
そうした選択に、その財布を作ったブランドやメーカーの考え方が表れます。
Dim.の財布も、小ささや薄さだけでなく、使うときの動き、外観の潔さ、革製品としての耐久性のバランスを見ながら設計しています。小さい、薄い、軽い、たくさん入る、といった特徴は伝えやすい強みですが、それを伸ばすことと、実際の使い心地を整えることは、必ずしも同じではありません。
使いやすさを細かく見ようとすると、設計にも製作にも時間がかかります。革の厚みや重なり方、開き方、閉じたときの収まり方。少し変えるだけでも、別の部分に影響が出ます。さらに製作の段階でも、革の個体差を見ながら調整する必要があるため、職人の技術や作業時間が必要になります。
効率だけを考えれば、そこに時間・コストをかけず、小ささや薄さ、収納枚数のような伝えやすい部分を前に出したほうが、製品としては見せやすいのかもしれません。
Dim.ではむしろ、開発・製作にしっかり時間をかけて、サイズ、外観、製品としての一貫性や調和、そして、使ったときの動きの自然さをできるだけ両立させたものを作っています。
一方で、Dim.のCOMMAは収納容量を特別な強みにした財布ではありません。大きさに対して必要な収納力は持たせていますが、返ってくるお釣りをあまり考えずに紙幣で支払うことが多い方、レシートを財布にためておきたい方、よく使うカードを常時10枚以上持ち歩きたい方には、少し窮屈に感じる場面があるかもしれません。
私も元々は長財布ユーザーでカードや小銭をたくさん入れていたので、そこからの小型財布への移行時にはそのままそれらを引き継げないという状態でした。しかしそれは実際にやってみると、大した障壁ではありません。
例えばカードは整理して、家に適当なカード保管ケース等を置いておくだけで、意外と持ち歩く枚数を減らせます。常に持ち歩きたいカードというのは案外限られているのかもしれません。
年に1~2回しか使わないカードはその時だけ保管ケースから取り出せば問題ないのですから。
使い勝手、使い心地の感じ方は人によって変わります。
持ち歩く中身や支払いのスタイルによって感じ方は少しずつ違うので、可能であれば店頭で実際に触ってみるのが一番わかりやすいと思います。
Dim.の財布は全国の革専門セレクトショップ、Free Spirits(フリースピリッツ)さんでもお取り扱いいただいています。
あなたが次にミニ財布を選ぶときは、小ささそのものだけでなく、その小ささがどんな使い心地につながっているのかまで見てみると、財布の見え方が少し変わるはずです。

![COMMA_ELE 2の革[Verdon]について](https://static.wixstatic.com/media/3e3fbf_c0c81567d5c343428fd27fc762c98710~mv2.png/v1/fill/w_980,h_551,al_c,q_90,usm_0.66_1.00_0.01,enc_avif,quality_auto/3e3fbf_c0c81567d5c343428fd27fc762c98710~mv2.png)

