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バッグは、どうモダン化されているのか

9月11日
読了時間: 9分

こんにちは。開発部よりDim. Journal、第3回をお届けします。

今回はバッグの「形」について、その見た目だけでなく、ひとつのバッグが最終的な形へたどり着くまでを少し掘り下げてみます。


2026年のハイブランドのコレクションでは、過去のアーカイブや長く親しまれてきたバッグを、新しいデザイナーが改めて作り直す動きが目立ちます。

同じ名前、同じ系譜のバッグでも、数十年前と現在では少しずつ違う。

では、バッグはどうやって「今のバッグ」になっているのでしょうか。


■01|バッグの「モダン」は、どこに現れるのか


シャネル創業者のガブリエル・シャネルは、かつて「カバンを手に持ちたくない」という理由から、自身のバッグにストラップを通して肩から掛けるようにしたと語っています。


1955年に登場したシャネルの2.55のチェーンストラップは、いまではシャネルを象徴するディテールです。


その背景には、バッグを新しく見せることより先に、「手に持たずに使いたい」という要求がありました。

肩掛けのバッグ自体はそれ以前から存在していましたが、2.55が歴史的なのは、両手を空けるという実用性が、それ以降の女性用のラグジュアリーバッグを特徴づけるデザインになったところです。


人々が何を持ち、どう過ごすか。そのスタイルが最新のバッグに影響を与えます。


財布を開かずに決済することが増える一方で、スマートフォンには一日に何度も触れる。仕事ではPCを持っていても、休日には最低限の荷物だけで出かける。

同じ人でも、場面によってバッグに求める容量や取り出しやすさはかなり違います。


単に「人それぞれのスタイルが多様になった」だけではなく、一人の生活の中でも「どう持ちたいか」が細かく分かれているのでしょう。



服装との関係もあります。


ボリュームのあるアウターに大きなバッグを合わせるのか、薄着で小さなバッグを脇に抱えるのか。同じような輪郭でも、服とのバランスや身体に対する大きさが変われば、バッグの見え方もかなり変わります。


2026年のボッテガ・ヴェネタで、ルイーズ・トロッターは同社を代表してきたLaurenやCabat、Venetaといったバッグを再構成し「構造から柔らかさを、プロポーションからモダンさを」という考えを示しました。

実際、Lauren 1980は従来のクラッチを大きく引き伸ばしたようなサイズで登場し、Venetaでは細いナッパレザーを編むことで、バッグ全体が大きくたわむ柔らかな形にしています。大型のVenetaではハンドルも固く補強せず、持ったときの形が固定されすぎない作りになっています。


同じコレクションの服にも、大きく取られた肩やゆったりしたボリュームが見られます。過去のバッグをそのまま復刻するのではなく、サイズや柔らかさ、持ったときの崩れ方まで変える。その結果、同じ系譜のバッグでも、現在の服に、暮らしに、街の雰囲気に合わせたときには別のバランスに見えます。


もちろん、輪郭そのものの新しさが強い印象を残すバッグもあります。

2024年のアライアのLe Teckelは、ダックスフントを思わせる極端な横長のフォルムで注目を集め、その後のイースト・ウエスト型を象徴するバッグになりました。


Le Teckelのように形そのものから新しさを作るバッグもあれば、見慣れた型の比率や柔らかさ、持たれ方を変えて今の空気へ寄せていくバッグもある。

現在のバッグにひとつの「モダンの典型」が見つからないのは、今の人々のバッグの持ち方自体に、ひとつの答えがないからでしょう。



■02|意図と技術が、ひとつの形になるまで


さて、少し作る側の話をしてみましょう。

まず、製品が生み出される出発点にはその製品で何を実現したいのかという「核(Core)」がある。


それは特徴的なシルエットかもしれないし、新しい使い方かもしれません。

「持った人にこう感じてほしい」という体験や、ある製法を生かすこと自体が核になることもあるでしょう。

そこへデザイナーがブランドらしさや時代性、入れたい意匠を重ね、職人は革や金具、構造、製法の側から考える。


個人的には、デザイナーが完成したデザインを職人へ渡し、職人がそれを忠実に実装する、という縦の流れだけで作るのが理想だとはあまり思いません。

どちらかを上流、どちらかを下流に置くよりも、この核を構想する段階から共作した方が、その製品の最終形に近づきやすいと思っています。


デザイナーが考える使われ方や見え方と、職人が知っている素材の性質や物理的な制約を早い段階でぶつければ、「何を実現するか」と同時に「何をしないか」も決めやすくなるからです。


例えば、身体になじむような柔らかさと、自立するきれいな輪郭を両立させたいとします。

補強を増やせば自立しやすくなりますが、そのぶん革の動きは減り、重量も増える。柔らかさを優先すれば、荷物を入れたときに狙った輪郭が残らないかもしれません。曲面を安定させるためにパーツを分ければ、その切替やステッチは外観にも現れます。


Dim.で現在試作しているバッグでも、紙では狙った輪郭に見えたものが、革で縫うと思った以上にマチが張ったり、形を安定させようと補強すると全体が硬く重く見えたりします。


こういうとき、最初に共有した核があれば判断は楽です。

輪郭を守るべきなのか。柔らかさを優先するのか。それとも別の構造を探すのか。


職人側では、切替の位置を変えたり、革の厚みを部分的に漉(す)いたり、芯材を入れる範囲を調整したりして、別の方向から狙った形へ近づけます。

そこで生まれた切替やカーブを見て、デザイナー側が「こちらの方がいい」と考えることもあるでしょう。職人の提案した方法が、当初のデザイン案より核をうまく表しているなら、それを採用することもできます。



エルメスでは、皮革製品部門クリエイティブ・ディレクターのプリシラ・アレクサンドル・スプリングが、小さなスケッチをもとにマケティストと立体模型を作り、試作用素材、実際の革や金具へと進みながら形を詰めていく工程をVogueの取材で公開しています。


同社のDella Cavalleriaでは、「革と金属の関係を見せたい」という狙いからボックスカーフが選ばれ、金具と革の組み合わせを考える中で、前面から底へ続く特徴的なカーブも作られました。

素材や製法は、完成したデザインを実現するために後から選ぶだけのものではありません。それらをどう選ぶかによって、最終的なデザイン自体も変わります。


ある程度の方向が決まれば、そこから実際に試作して確認していきます。

頭の中では成立していた条件が、革という素材で作るとなるとぶつかることもあります。そこで何を残すのか、何なら変えていいのかをまた考える。

試作を重ねるうちに、最初に考えていた核がよりはっきりすることもあれば、作ってみた結果、核の見せ方そのものが変わることもあります。


最終的な形は、デザイナーの意図か職人の技術か、どちらか一方へ寄せて決まるのではなく、同じ製品について考えた両者の着地点に決まっていくのだと思います。

そして、その成果もどちらか一方だけのものではありません。


デザイナーには「この素材なら、ここまでできる」という経験が残り、職人側には、それまで扱ったことのなかった要求を形にするための知識が残る。次の製品では、その共有された経験からもう少し先へ進めます。

ただ、こうした作り方には、互いの領域をある程度理解するための知識と、きちんと話す時間が必要です。


現実には「デザインはデザイナー、製作は職人」と役割をきれいに分けた方が進めやすい場面もあります。その結果、試作品が出来上がってから初めて認識のズレが分かり、何度も作り直すこともあるでしょう。

さらに商品となれば、原価や納期、生産数量も入ってきます。


一個なら成立する構造でも、何十個、何百個を同じ品質と価格で作れなければ採用しにくい。何を残して、どこを変えるのかには、ブランドがその製品へどこまで時間とコストを使えるかも影響します。


■03|「作り方」がバッグの顔になる


ボッテガ・ヴェネタのイントレチャートは、薄い革を柔らかく使いながら耐久性を持たせるために生まれた編みの技法です。


当時ボッテガ・ヴェネタのクリエイティブ・ディレクターだったマチュー・ブレイジーは、これを実用的な解決から美的な特徴へ発展したものとして語っています。いまではイントレチャートそのものが、ボッテガ・ヴェネタを代表する意匠です。

バッグの形状ではなく、「革を編んで作る」という方法自体が、バッグの見た目をつくっている。


ロエベのPuzzleも、少し違った形でそれを見せています。

2015年当時、ロエベのクリエイティブ・ディレクターだったジョナサン・アンダーソンが試作の中から生み出したPuzzleは、革を幾何学的なパネルへ分割して立体を作り、平らに畳むこともできます。その切替線が、そのままPuzzleらしい外観になっています。


イントレチャートなら「編む」、Puzzleなら「革を分割して組む」。


サイズや用途が変わっても、その作り方は別の製品へ展開できます。

ブランドらしさは、「この形のバッグを作る」というところだけではなく、「こういう方法で形を作る」というルールにも持たせられる。そのルールが残っていれば、別の形の中にも同じブランドを感じることができます。作り方そのものが、ブランドのひとつの文法になっているということです。



書きながら、メゾン マルジェラの4本の白いステッチを思い出しました。


もともとはブランド名を前面に出さない無地のラベルを留めるための痕跡だったそうです。

それが今では、背中に4本のステッチが見えるだけで「マルジェラだ」とすぐに分かるほどの強い記号になっています。

ブランドを主張しないための仕掛けが、長い時間の中で逆にブランドを感じさせるものになった。

皮肉ではありますが、興味深い成り立ちと思いません?


イントレチャートやPuzzleとは成り立ちが違いますが、ひとつのルールを繰り返すうちに、それ自体からブランドを感じるようになるところには、似たものがある気がします。

私は、この構造と意匠の境界がなくなったところに、現代のバッグを特徴づける一つの面白さがあると感じています。


1955年、シャネルの2.55は、「カバンを手に持ちたくない」という要求をバッグ自体で表しました。


現在は、服装も持ち物も行動もさらに細かく分かれています。昔からある型を今のプロポーションへ合わせることもあれば、求める使い方から素材や製法まで考え直すこともあって、かなり多様化しています。


バッグのモダン化は、ただ新しい輪郭を作ることではなく、今の「持つ」に対して、そのブランドがどんな答えを出すのか。その過程全体にあるのだと思います。


私達も現在、新しいバッグを試作しています。

Dim.らしさに今の時代の空気を織り込んだバッグを完成させたいと思っているので、リリースできた際にはぜひチェックしてみてくださいね。




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