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Dim.の革:Conceria 800社とトスカーノレザーについて

更新日:2月6日

2023年6月現在、Dim.ではConceria800社の「トスカーノ」レザーと、TEMPESTI社のシビラレザーを製品に使用しています。

この記事では、特にDim.の開発者のお気に入りであり、当ブランドの「メインの革」として今後も重用することになるであろうヴァケッタレザー「トスカーノ」シリーズについて、どういうタンナー(革の鞣し会社)のどういった革なのか、ユーザーの皆様にもお伝えできればと思います。


まずは革を製造しているタンナー、Conceria 800社について。

▲トスカーノ・バフ/Conceria800社:FINDA_LAPTOP_SLEEVEにも使用されている


Conceria 800(オットチェント社)は、

イタリアのトスカーナ地方にて最高品質の革製品と伝統的な植物なめしで知られていた古いなめし工場「Tre Chiodi(トレ・キオーディ)」を買収した後、その伝統を引き継ぎ、さらに進化させる形で70 年代後半にイタリアで誕生しました。


その時代、多くの同業者が現代的なクロム/合成タンニンなめしに舵を切る中、彼らは手間と時間がかかる伝統的な鞣し法に固執し、今もそれを貫いています。その源泉は「皮革への深い愛情」と「質へのこだわり」です。


ヴァケッタレザーという言葉については、(少なくともConceria800社の基準では)それを現代で製造できるタンナーはそもそもほぼ存在しません。そのため、「ヴァケッタ」を名乗れる革や製品は少なく、よって言葉とその定義がそれほど定着していない、という印象です。

時には「植物タンニンなめしである」というだけでその名前を使用するタンナーや製品メーカー、もしくはメディアも存在します。


しかし、Conceria800社のヴァケッタレザーは、「ピット槽を使用した伝統的な製法で鞣された皮革」にだけその名が冠されます。

このピット槽でのなめし工程のことを「コンチャ・イン・フォッサ」といい、今では廃れてしまった古の技術ともいえます。

(一説にはイタリアでもConceria800社のみがそれを継承しているとか。)


そのルーツは、西暦800年まで遡ると伝えられており、これこそがConceria800社の名前の由来となります。(800はイタリア語で”オットチェント”であることからオットチェント社と呼ばれる。)

産業化・近代化の中で、効率を重視した時代背景から一時は忘れ去られたヴァケッタ製法ですが、その深い風合いと美しさを再評価する声が高まっています。

そして、Conceria800社はこの伝統技術を現代まで高い水準で維持し、進化させてきました。


革はどう作られるのか?

原皮はアルプス地方(フランス、ノルウェー、デンマークにまたがる)のステア牛からとれたものを使用しています。良質な原皮を得るためには、牛の品種はもちろん、牛がストレスなく育つ環境の提供が必須であり、Conceria800社では、土地の気候や屋内・屋外飼育の環境やエサの質や量など様々な要素を見極めて原皮の供給元を選んでいます。


原皮はまず塩漬けにして保存されます。こうすることで革に含まれる化学有害物質や重金属を少なくすることができます。原皮の毛皮を除去をした後、鞣しの工程に入ります。


ヴァケッタ製法ではタンニンと油脂をじっくりと原皮に染み込ませる為に、まず槽の中に30日間以上革を漬け込ます。

タンニンとは植物の渋のことです。

Conceria800では革の種類や色に応じてケブラチョ・ミモザ・栗の3種類のタンニンを混合比を変えて使用します。これらの天然成分を使用することにより、アレルギー反応を引き起こさない非アレルギーレザーとなり、革の風合いも非常にナチュラルな良いものになります。


ヴァケッタ製法では、タンニン以外に半固形の動物性油脂(牛脚油や魚油)を皮革の内部まで浸透させて革を仕上げます。

動物性油脂を浸透させるこの工程によって、ヴァケッタレザーは他にないしっとりとした手触りを獲得します。


その後ドラムで染色を施すことにより、各々の革は自然由来の色彩と質感を獲得します。ロットによる微妙な色の違いは、革の自然な魅力として捉えられます。


この製法は、環境に優しく、刺激の強い化学物質は使用されておらず、開始から終了まで最大6か月かかるゆっくりとしたプロセスです。その長い過程は、皮革に独特な表情を与え、さらに大気中の湿気と気温の変化により革に独特のツヤと風合いが生まれます。

その結果、一生使えるように作られた、美しく豊かな革が生まれるのです。


「社会責任と環境への配慮」も、

Conceria800社の信条の一部です。工場のすべての電力は再生可能エネルギーによって供給され、カーボンフットプリント*の改善に力を注いでいます。また、通常の工場では大量の水を必要とする鞣しのプロセスにおいても、最新の設備に投資し、効率的な水量で行うことができ、排水はろ過して再利用することで環境負荷を最小限に抑えています。

*カーボンフットプリントとは、特定の活動や製品、個人、組織などが直接的、間接的に排出する二酸化炭素や他の温室効果ガスの総量を指します。これは地球温暖化への影響を評価する一つの指標となります。


また、これはConceria800社に限ったことではありませんが、全世界で利用される革のほとんど全てが食肉産業から得られる副産物であり、これらの皮を適切に処理し腐敗を防ぐことで利用されています。革製品の製造のためにわざわざ動物が犠牲になることはありません。


23名の従業員で構成されたConceria800社は家族経営のような形で、全員が一体となって最高品質の皮革作りに取り組んでいるようです。適切な賃金や労働時間の確保はもちろんのこと、職人一人ひとりが集中して皮革製造に専念できる環境を提供されています。


トスカーノシリーズ

Conceria800社の皮革製品の最大の特徴は、その自然な美しさです。

これは厳選された上質な原皮と、職人技の伝統と革新が結びついてようやく生まれるものです。

結果として生み出される革は、所有者によって異なるエイジング(経年変化)を楽しむことができる美しいものとなります。


「トスカーノ」シリーズはその代表例で、ヴァケッタ製法を採用したこのシリーズのレザーは、Conceria800社の製品ラインの中でも中心的な存在です。

前述の工程により、動物性脂肪を多く含むこのトスカーノは、革特有の美しい経年変化を提供します。


トスカーノリーショ/Toscano Liscioはその中で表面が滑らかなもの(スムースレザー)。

最初は艶を抑えたマットな表情ですが、使用していく内に経年変化で美しい艶が出ます。

しっとりとした触り心地は他にはなく、製品を手に取るごとにそれを思い知ることになるでしょう。


Dim.ではCOMMA_ORIGINALの開発にあたり、国内外を問わず百種類をゆうに超えるレザーサンプルを取り寄せ、どれを使用すべきか長い時間をかけて検討しました。

その中で革の美しさと手触りについて満場一致で選ばれたのがこの革です。

Dim.の製品では「COMMA_ORIGINAL「ID/PASS_CASE」に使用されています。





トスカーノバフ/Toscano Buffedはリーショを銀擦り(バフ)加工したもの。

革の銀面を研磨することで、外観に特徴的な高級感のあるムラが出ます。

こちらもリーショと同じく手触りはしっとりしており、また、リーショ以上にマットな表情をしているため、使用するごとに纏われる艶によって、深い経年変化を感じられるでしょう。


Dim.の製品では「FINDA_LAPTOP_SLEEVE」に使用されており、今後いくつかの製品にも使用されます。



「当社の革は、

植物やその他の天然抽出物から作られたタンニン、オイル、ワックスを使用して製造されており、革を"生きた"状態に保ち、それから作られた製品にさらなる"価値"を与えます。私たちの製品づくりには感性、経験、繊細さが求められます。私たちの手と仕事への愛情は製品の"内部"にあります。」 Conceria800 Official Web Siteより



あとがき

Conceria800社は、伝統的なヴァケッタ製法を継承しつつ、カーボンフットプリントに対する意識など、現行の環境問題にも配慮した、現代的なタンナーです。

そして、私たちが「メインの革」としてConceria800社の革を使用する理由は、純粋に彼らが提供するレザーが美しいからです。


革の良さの一つの見方として、自然が生み出す荒々しさやランダム性による美しさがあると思っています。

革の加工においても、ナチュラルな部分を全部塗りつぶして均一にするような加工は多々あるのですが、このヴァケッタレザーはそれとは逆に、"革の自然さ"を上手にパッケージ出来ているところに本当に驚きます。それがまさに彼らの言う、「革を"生きた"状態に保つ」という部分なのだと思います。

(もちろん、均一な加工には均一な加工の良さが、クロム革にはクロム革の良さが、それぞれにあります。)

▲同じ革の中でも様々な部分があります。Dim.では悪目立ちしすぎる部分や耐久性に影響する部分以外は極力製品に使用します。


そして、Dim.の製品を通してこの革のクオリティを目の当たりにすると、きっと彼らが語る「私たちの手と仕事への愛情は製品の"内部"にあります」という言葉の説得力はより高まるはずです。


"質が高いが手間暇と時間がかかる方法"というのは一見非効率で、このハイスピードな資本主義社会では淘汰されることが多いです。でも、それを現代に継承して進化させる職人と、その質がわかるユーザー/消費者の方がいるからこそ、そういった素材や工芸品というのは今日でも輝きを放っています。


「革が良い」というのは他でもないタンナーの努力なので、レザーアイテムのメーカー/ブランドである私たちとしては、革の個性を活かしつつ製品としてどう昇華できるかというところや、上質な革をユーザーの方に楽しんでもらうための工夫といったところを、これからもとことん突き詰めていきます。


記事を書いていて、私たちも言葉に負けない説得力を持つ、質の高い製品を今後も世に出していきたいな、と改めて思った次第です。



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